NOがもたらす健康

むしろ問題なのは、現在のNOの産生が足りない人が多いということなのです。

NOは血管の健康を維持する

林先生:我々の研究室でも、NOの動脈硬化症や老化に対する作用や、女性ホルモンを介する作用を証明してきたのですが、NOには非常に優れた特徴がいくつもあることが知られています。その中で先生はどの機能を一番強調されますか?

イグナロ博士:どれか1つを選べと言われれば、やはり心血管、循環系の疾患から人間の体を守ってくれる作用だと思います。心血管系疾患といえば、脳梗塞がそうですし、狭心症や心筋梗塞、心不全といった重篤な病気から、NOは我々を保護してくれるのです。加えて冠動脈疾患そのもの、つまりは動脈硬化といった基礎疾患に対する保護作用もあります。 血液中や細胞内のNOレベルが低下している人の場合、糖尿病や循環器系の疾患の発症をしやすくなりますし、逆に疾患のない健康な人を診ると、NOレベルは正常です。これにはたくさん根拠があって、NOレベルを上げることによって、すでに罹患している心疾患が、可逆的に改善することも分かっています。NOの特性に関して一番大事なことは、やはり心臓などの血管の健康を維持することだと思います。他にもたくさん良い作用があるのですが、「もっとも重要なものは何か?」と聞かれたときは、迷わずこの血管の保護作用をあげることにしています。 一方で、「NOが増えすぎると体に悪影響を与えるのではないか」という、正反対の質問を受けることもあります。最初に言ったように、私の研究はニトログリセリンから始まっていますが、ニトログリセリンは外部からNOを摂取しているようなものなので過剰摂取に注意が必要ですが、体内でアルギニンやシトルリンから産生されるNOは、酵素の働きによって産生されるので作られすぎることはありません。もし仮にアルギニンやシトルリンを多く摂ったとしても、酵素反応によって処理された分だけNOが産生され、使われなかった分は排出されます。つまりアルギニンやシトルリンからはある一定量までしかNOを産生できない仕組みになっているので、増えすぎる心配は基本的にはないのです。むしろ問題なのは過剰摂取ではなく、現在NOの産生が足りない人が多いということなのです。

加齢に伴い低下するNO

林先生:NOは加齢とともに産生及び血中濃度が低下していきます。高齢者の方はアルギニン、シトルリンを積極的に摂ったほうが良いと思いますか?

イグナロ博士:ですから、私が摂取しているわけですよ(笑)。多くの場合、我々の研究は疾患に目が向きますが、先生の研究にも有るように、NOは細胞老化をおさえ、究極的にはアンチエイジングにも効く可能性があります。ただ、アンチエイジングという観点では医学的な検討がまだそれほど十分に行われておらず、言葉が一人歩きしているというのが実情です。老化を防ぐのは多くの人々の願望ではありますが、疾患を治す研究が優先して行なわれているからです。健康でより良い人生を送ることはとても大事なことですので、そのための研究も更に進んで欲しいと思います。 とはいえこれまでの研究から、NOのさまざまな利点のひとつに寿命を延ばす可能性が挙げられています。さらに、50歳を超えるとグルタチオンのような生体内に存在する抗酸化物質だけでなくNOも次第に減少することが分かっています。NOは血管の健康を維持する重要な物質ですので、そのレベルを維持することは、健康でより良い人生を送るためには重要です。健康でより良い人生というのは、例えば心臓発作を起こさない、癌に罹患しない、アルツハイマーにもならないといったことが基本になりますから、高齢者ほど体内のNOレベルを高める生活を意識していただくことが大事です。

若者も転ばぬ先の杖として摂取する

林先生:健康状態に問題があったり不安を抱えている人は、アルギニン、シトルリンを摂取して体内のNOレベルを高めることが有効であるかもしれないというお話でしたが、現在、健康状態が良好な人がアルギニン、シトルリンをとると、さらによくなるという可能性はありますか?

イグナロ博士:私見ですが、若くて健康なうちはサプリメントを摂る意味がないかというと、そうではなく、将来具合が悪くならないための、予防のためにも役に立つと思っています。アルギニンやシトルリンは、健康状態に問題が生じてからとってもNOレベルを高めますが、本来の健康な体に戻すのは本当に大変なことです。ですから、罹患する前から予防策として摂っておくほうが良いと思います。ティーン・エイジャーとか、20代前半くらいの若い人でも、健康を維持するためにとるのは意義のある事かもしれません。 というのは、アルギニンやシトルリンにはスポーツのパフォーマンスを向上させる作用が知られているからです。エネルギーレベルを高めてくれますし、NOを増加させることによって四肢への血流量が増え、筋肉に酸素が供給され老廃物も素早く代謝されると考えられています。

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