1日8時間の水中生活と独特の訓練

1日8時間の水中生活と独特の訓練
鈴木絵美子さん

シトルリン研究会:鈴木絵美子さんはシンクロナイズドスイミングの選手として、2004年のアテネオリンピックでチーム2位、06年の日本選手権ソロで1位、08年の北京オリンピックでデュエット3位という、輝かしい成績を残されていますが現役生活は何年間でしたか。

鈴木絵美子:小学3年生からシンクロを始めましたので、そこから数えると18年ですね。

研究会:18年間、その多くの時間を水中で過ごしてこられたのですね。シンクロを始めたきっかけはなんだったのですか。

鈴木:兄2人といっしょに4歳から泳ぎを習っていたのですが、兄たちがサッカーに夢中になってスイミングを止めたため、私もいったんそのクラブを止めました。でもまた泳ぎたくなって、近所のスイミングクラブを探していたところ、ちょうど近くにシンクロクラブがあったので、入りました。それが小学3年のときです。

研究会:お父様(鈴木雅夫)とお兄様の一人(鈴木康正)がプロゴルファーというスポーツ一家ですね。やはりオリンピックに出られるような方は、もともとの素質が違うんですね。

鈴木:いいえ、そんなことはないですよ。私も近所のシンクロクラブでやっていたころは、とくに目立つような存在ではなかったので。たまたま私が出場した競技を有名なコーチに見てもらえたという偶然もあったし、いろいろな幸運も重なってのことです。もう一つの重要な要因は、途中でやめずに続けたこと。それが大きかったと思いますよ。

身長は技でカバーする

シンクロをやるのに必要な能力

研究会:シンクロをやるのに必要な身体的能力とか体格などはありますか。

鈴木:広いプールの中で演技を大きく見せるためには身長が高いほうがたしかに有利かもしれませんが、それは絶対条件ではありません。

研究会:同じチームでは体格が同じ人と組むのですか。

鈴木:そうとも限らないんです。背が低ければ演技の技で高さを出して、そろえることができればいいわけですから。

研究会:どれくらいトレーニングをされるのですか。

鈴木:現役時代は1日に8時間から10時間ぐらいは水の中にいました。

研究会:水中では長く潜って息を止めていますね。シンクロ選手は水中で何分ぐらい息を止めていられるのでしょうか。

鈴木:それはよく聞かれるのですが、実は私もよくわからないのです。というのは、シンクロ競技は水中で激しく動き続けるスポーツなんです。だからトレーニングでも、静止して長く潜るという訓練はしたことがないのです。

呼吸を止めたまま激しく動くということ

呼吸を止めたまま激しく動くということ

研究会:昔、小谷実可子さんが現役を引退した後に、海でイルカを追ってすごく長く潜っていらっしゃる番組を見たことがあるので、シンクロの選手はみな、息を長く止められるのかと思っていました。

鈴木:小谷先輩たちの時代のシンクロ競技は、バレエのように優雅な美しさが求められていました。だから当時は水中で長く息を止めるという訓練もやっていたのだと思います。ところが最近のシンクロ競技は、スポーツ的要素が重視されるようになって、体を動かせば動かすほど加点されるんですね。ですからトレーニング方法もそのころとはいろいろと変わってきたのです。

研究会:競技中はどれくらいの時間、息を止めているんですか?

鈴木:多分20秒か30秒ぐらいのものだと思います。

心拍数を上げて限界まで動く

研究会:どのようなトレーニングをするんですか。

鈴木:練習方法ではありませんが、たとえば、50mダッシュで走った直後に今度は息を止めて50mダッシュ、そしてまた息をしながら50mダッシュ。これを繰り返すという、そんな練習ですね。

研究会:それはきつそうだ! 息を止めるとその間、体に必要な酸素や血液が十分回らないのでは? と思うのですが。水中で失神したりしないのでしょうか?

鈴木:意識がなくなっても不思議に手足は動いているんです。まさに練習のたまもの。チームの一人が競技の後、終盤の記憶がまったくない、と言っていました。でもその間もちゃんと演技はしていたんですよ(笑)。

研究会:100mの深海に潜る記録を打ち立てたジャック・マイヨールは、水中で心拍数を極端に下げて、何分も水中にいられたと言いますが、今のシンクロはそれとは違うんですか。

鈴木:私たちはパフォーマンスの最中はものすごく心拍数が上がっていましたね。競技を最初から最後まで1本やると、もう限界なんです。心拍数を落として長く潜るのではなく心拍数をあげて限界まで動くというやり方なので、練習中は頻繁に心拍数を測っていました。あまり上がりすぎると危険なので気を付けていましたね。

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